書き継ぐ


渓谷沿いの単線を電車が走っていて
猿どもはもう進化を諦めていて
懐かしいバグパイプの音も遠ざかって
私は詩を書き継ぐしかない

ソファで母親が赤ん坊に乳を含ませていて
白昼の街角で不意に爆発が起きて
新しい朝に騒がしい意見が聞こえてきて
少年はむっつり漫画を読んでいて

それがどうしたというのだろう
正史には英雄だけが勢ぞろいしていて
疵だらけの古い映像が映っていて
私は詩を書き継ぐしかない

終わりが見つからないのは
始まりを知らないからだ
信じることを日々疑い続けて
空だけが救いのように広々している

行き場所のないゴミとともに生きて
行方不明者たちの名を忘れて
祭壇に捧げるものを質に入れて
ナノメートルと光年の区別もつかずに

息つく暇もなく賛否を問われ
揺れ動く気分をかわしながら
意味よりも深い至福をもとめて
私は詩を書き継ぐしかない


作者
谷川俊太郎

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